銀座の鴉

地下鉄駅から数寄屋橋に出る
銀座の朝の間延びした靄がかった裏通り
ゴミが積まれた集積場に群がる鴉ども
上等の餌をついばんで散らかし
得意げに啼く
俺様は銀座の鴉だと威張っては
エンブレムを探したか
ドンペリを呑んだか
酔客のゲロが撒き散らされ
シャッターにかけられた小便
臭い漂う銀座の香水は
夜間飛行だろうか
くだらない見栄と体裁
たった数時間の快楽に大枚払い
鴉たちは嗤う
懐かしい銀座
昔の風情もいまはなく
ビルも街も腐ってゆく
追い立てられた鴉どもは
流行を追う女たちのように
人真似がうまい
着飾ったって所詮鴉よ
黒い羽根はごまかせない
泣きはらした朝の飲食店街の
裏通りには捨てられた男と女の
残滓が転がって風に吹かれている

君と横浜新年会

横浜はぼくの若いときの
苦い思い出の街だから
あのときのぼくを慰めに来た
いつも一人で
遠くの人を想いつめていた日が
いまも突き刺さる
ぼくはストーカーを演じていた
学業も放擲し
ひたすら
中華街裏の下宿で
机のノートに向かっていた


西口五番街の同伴喫茶で
未成年のくせにバイトして
暗い客席で男女のまぐわいに胸が鳴った
古い城の建物で
騎士の恰好でドアボーイもした
いまはそこはゲーセンで
半世紀経っても建物があった
風俗ばかりの暗い昭和の街が
残されていたことに驚き
ぼくの青春もそっくりそこに
停まった時間の中にあって
いま君とそこを歩く


どこかで呑もうか
ぼくらは居酒屋にしけこみ
そこで19歳の冬の話をした
君は言う
いまもあなたには暗い影がある
それが本当の素顔ねと
横浜で晩くまで呑んで
酔っ払って帰ってもいい
街は変わる
どこかに昭和の遺跡があって
そこに淋しがり屋のかつてのぼくが
潜んでいたりする

なにごともなくなにごともない

なにごともなく
なにごともなく
ただ座っているだけの仕事は
楽を通り越して拷問
なにごともなくと
お経を唱えるように
ただ何か起こるのを
待機する仕事は
閑という静かなる退屈
なにかないのか
走りたくなる衝動も
立って歩き回る檻の中の熊も
なにもない平和と仕合せの中で
死んでいる
なにごともなく
また
なにごともない
あくびだけが
この静寂を破る
阿保になる莫迦になる
日誌に書くこともなく
今日も白いまま