きざし

明るいにおいがする
なにかわからないが
どこからか光が漏れてくる
洞窟からぼくらは這い出られる
そんなきざしが細い光の帯となり
割れ目の奥から射し込む
新しい年になり
変わるものはないけれど
いままで耐えたものが
向こうから開いてくるような
春の予感が風に伝わる


ぼくらを解放せよ
出口から飛び立たせ


なにかが違っていた
そのなにかが
見えない小さな穴としても
迷路からの糸口が
曙光の救いで
呼びかけている


手と手

どこにいても君の手があった
床に入り暗がりでも
布団の中で手を求め
まさぐりあい
街を歩いても自然と手を繋いで
この世の二つの手と手を探り合い
見つけては結ぶ


君の手
いつしか指関節にタコがある
それは君の自虐の癖の
精神が痛めつける肉の一部
そこに追い詰められた人の
かりかりと音のするかなしい習性を見た
ぼくはやわらかく包んでやる


ぼくの手は大きいと
君はぼくに男の野性を見る
手と手はぼくらの通信
USBでデバイス
通電するように判り合えるもの


しみじみ手をとっては眺めて
君の半世紀の苦労を偲ぶ
ピアノソナタを弾いて
花を活けテニスラケットを振った手
親から離れ夫から離れ
一人になった手
それを一人のぼくが握りしめて
離さない

固まってゆく身体

おれの体
どうにかなっちまったい
かちかちに干物になるか
ならば水分が足りない
潤いが欲しい
手は痺れ足は他人のよう
神経が回路が狂って
次第に動かなくなる


おれの体
開かなくなっちまったい
閉じてゆく蛹のよう
変態してゆく
あれほど
飛んだり跳ねたりしていた
おれの体
かがめない立ち上がれない
走れない自転車に跨げない


おれの体
こちこちに固まって
このまま銅像になるか
生きたままブロンズにさせられて
広場に立っていたらいい


動かないと動かなくなる
枯れ木のように
立ったまま死んでいる