炬燵に蜜柑

ありきたりの冬の部屋の静物画が
炬燵に蜜柑
とりわけてどうのということもなく
炬燵に蜜柑
だからどうしたということもなく
炬燵に蜜柑
日本人でよかったと思わせる
炬燵に蜜柑
猫はいないが君の足がもぞもぞと触れあう
炬燵に蜜柑
テレビではくだらない正月の娯楽番組ばかりだが
炬燵に蜜柑
そろそろお餅も飽きてきたらかカレーがいいねと
炬燵に蜜柑
年賀状もぽつぽつと来ている懐かしい顔で
炬燵に蜜柑
お供えもお汁粉で飾りも取れば淋しい
炬燵に蜜柑
そろそろ豆まきとバレンタインか
炬燵に蜜柑
冬は足早に過ぎてゆく
炬燵に蜜柑


坂の途中で若い君と会う

朝帰りの仕事でくたびれたわたしに
家の近くの坂道はきつい
あれは日曜日の朝で人通りもないときに
坂道の途中で君によく似た女の子が通る
あっ と言う 向こうも あっ と言う
互いに名前で呼び留めて
立ち話になる
きっと君が若いときはそうだったのかと
娘と会ってその若さが眩しく


ママに食べ物をいろいろともらってと
恥じらう
そうか ママなのだ
どうしてか娘のいるとき君は急激に老けて見えた
君は可愛らしい人から母親の顔になる
ママと一晩きっといろんな話をしたんだ
ぼくに遠慮しないでと言いたい代わり
またこの前のようにカラオケに行こうねと
うん 行こう行こう
ぼくの娘ではないのだが
どこかぼくは父親になり 
娘もどこかで慕い
都会ですれ違う人の中で
認識しあう数少ない身内
また遊びに来てねと
手を振りあって
ここは袖摺坂


ブラックアウト

わが息子よ
おまえはいまどうしているのだろう
遠く異郷の地の工場で
流れ作業の部品となって
油まみれで働いていることだろう
家を嫌い家族は小言ばかりで
家出同然で故郷をも捨てた
生活と借金のためもある
北国に残した子たちのためもある
それでも稼がないと暮らしが
成り立たないと
不本意な出稼ぎで年を越した
上州の空っ風は寒かろう
おまえはきっと頼る者もなく
八方塞がりで仕事を辞めた
シャッターを下ろした店には裁判所の
紙が貼られていることだろう
そうして前方は何も見えない
ブラックアウトだ
目が醒めない限り
何も見えない
そのことが判らない
あわれなやつはいつまでも
そうしているがよい


わが息子よ
おまえは父を否定した
それを乗り越えたか
拒絶するばかりで
求めるものがない
批判ばかりで解答がない
閉じられたホームページは
歴史に幕を下ろし
この世から看板を抹消する
それを見るにしのびない
突然消えた画面は
ただ黒く塗りつぶされていた